ユネスコ(国連教育科学文化機関)の諮問機関から、世界自然遺産への「登録」が勧告された「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表(いりおもて)島」。4島の中でも奄美大島(鹿児島県)は、固有種や絶滅危惧種の数が多く、「オンリーワンの島」とも呼ばれる。2020年まで6年間、奄美支局長を務めた記者が、その魅力を紹介します。
「キョー」。春の夜、島の渓流には、鳥のような美しい鳴き声が響く。声の主はアマミイシカワガエル。緑の体に金のしずくをちりばめたような姿から「日本一美しい」とも言われるカエルだ。林道沿いで草をはむのは、真っ黒で耳も足も短い国の特別天然記念物アマミノクロウサギ。樹上では野鳥ルリカケスが瑠璃色の羽を休め、アマミエビネが白や赤紫の美しい花で林床を彩る。山奥の渓流では「幻の花」と呼ばれるアマミスミレがひっそりと開花する。
いずれも世界でこの島周辺だけに生息する「固有種」。「奄美の自然の魅力は多様性。驚くほど多くの種類がいて、固有種や絶滅危惧種だらけ。世界でここだけの『オンリーワン』の自然がある」。島で約40年、撮影を続ける自然写真家常田(つねだ)守さん(67)は言う。
環境省などによると、奄美大島の固有種(亜種を含む)の数は、コケや藻などを除く維管束植物125、脊椎(せきつい)動物52、昆虫838。環境省レッドリスト(2018年版)に記載された絶滅危惧種は、維管束植物193、脊椎動物76、昆虫20にものぼる。
そんな特異な自然の背景は、島の成り立ちにあるという。自然遺産に勧告された奄美大島などの島々はかつて、ユーラシア大陸と陸続きだった。それが約170万年前までに、地殻変動や海面上昇により、古いタイプの生き物を封じ込めたまま島として孤立。大陸で絶滅した種が生き残ったり、隔離後に島で複数の種に分かれたりして、固有種になったとされる。近くを流れる黒潮は、奄美大島で年間降雨量2800ミリ以上、平均気温20度超という温暖湿潤な気候をもたらし、「命のゆりかご」となる豊かな森を育んだ。
そんな貴重な自然が人の営みのすぐそばにあることも奄美大島の特徴の一つだ。絶滅危惧種の花が裏山で咲き、ルリカケスは民家の軒下にも巣をつくる。「屋久島の縄文杉のような目玉がない」と誤解されがちだが、山歩きの経験がなくても世界遺産級の生き物を体感できる。今回の勧告は、その価値の高さが世界的に認められた証しだ。
一方で「近さ」は「危うさ」を伴う。山は伐採によって手が入り、遺産の「核心地域」にも外来種が茂る。身近で希少な自然を楽しみながら、どう守るか。今後の課題だ。(外尾誠)
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ほかお・まこと 1971年長崎市生まれ。99年に朝日新聞記者となり、鹿児島総局や西部本社社会部、東京本社国際報道グループ、熊本総局などで勤務。2014年4月~20年3月に奄美支局長を務め、その間、奄美群島地域通訳案内士にも合格した。現在は大牟田支局長(福岡県)。著書に「患者さんが教えてくれた 水俣病と原田正純先生」(フレーベル館)。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル